hisano keitaro Architectural Design Office himalaya
住宅建築
(2003年11月号)
「H邸」
この計画では、将来の二世帯同居を視野に入れた規模が求められた。完全な二世帯住居というのではなく、あくまでも同居というスタイルである。まず、将来の世代別の生活を意識し、性格を異にしたゾーンを用意した。平屋で比較的囲われ、天井高さを抑えた「静」のゾーンと、二層吹き抜けて、大きなガラス面をもつ開放的な「動」のゾーンである。お互いに補いあう二つのゾーンは、プランの中心に設けられた中庭を境にして縁側で結ばれ、人の気配が感じられる程度の距離をとって配置される。この距離は、各世代の緩衝帯となるよう計画している。その上で、縁側と中庭は既存庭、屋上テラス、そして空といった外部空間をそれぞれの室内空間へと導き、その境界を曖昧にする。
配置計画においては、特に、敷地南側に隣接する大きな駐車場の、今後の用途の変更に注意する必要があった。近隣の様相の変化から予測するに、近い将来、中高層のマンションが建つ可能性を否定できなかったからである。また、建主からは敷地南側の既存の庭を生かしてほしいという要望があった。そこで既存庭を縁側で囲い込むようなL字のレイアウトとし、隣地からのプライバシーを確保しつつ、大きな開口を西側に向けて確保した。熊本は、風土上、西という方角はとても注意を要する。夏の時期、その西日の強烈なことは有名である。しかしまた、西風はとても心地よくもあるのである。西日対策として開口は折り畳み式の雨戸で全面を覆われた。この雨戸には無双窓をもうけている。その面は完全な遮蔽ではなく、調整可能な隙間から複雑な光が室内に影をおとし、人工的な木漏れ日を演出した。雨戸は開口を保護する機能と同時に、日ざしをやわらげ、かつ、西風は取り込むフィルターとなるよう意図している。空調機器に頼らない快適な空間の構築をこころがけ、常に風の入り口と抜け口を意識して各部を計画しているが、風の流れをコントロールする上で、玄関と居間との間の間仕切りも重要な通り道となっていた。そのため、視線を適度に遮り、空気の流れは妨げないステンレスメッシュという素材を採用している。
この建物の特徴のひとつとなっている開放的な二層部分の構造は、30cm厚のコンクリート壁と鉄骨で組まれた二階床という混構造で成立しており、構造家の新穂氏による。その一面は二層分のガラス面で覆われる。一方、ヒメシャラが植えられた中庭を挟んで位置する平屋部分は、極力高さを抑えられている。芝生の屋上テラスとそれに続く二階床レベルが同一となるよう計画し、より効果的な空間の広がりを意図している。
竣工にあたっては、岩永組の本山裕也氏をはじめとする理解ある職人の方々の努力と工夫、助言をいただいたことが大きな力となった。幸いなことに、竣工後には熊本県の「くまもとアートポリス推進賞」を受賞することができた。