hisano keitaro Architectural Design Office himalaya
Awards
第17回 くまもとアートポリス
推進賞選賞受賞
「嘉島の家」
審査員講評
1階を親世帯、2階を子世帯に割り振った2世帯住宅である。とは言え、その間になんらかの関係をもたせようという努力があって、かつその点においていくつかの達成が見られたことがすばらしいと思う。
もっとも大きい達成は、「第三の玄関」という考え方の導入である。これは、2つの世帯への第一、第二の玄関に加えて、アプローチから家の中腹を貫いて庭に至る、つまりは「庭への玄関」を挿入するというアイデアで、この特異なジャンクションが、さらにふたつの世帯のジャンクションともなっている、というところがミソである。つまり、家の中心が大黒柱のようなモノではなく、「三叉路」という交通空間あるいはコトになっているわけで、これは思いつきそうだが実はそうない創案であり、ここから大きく展開できるアイデアだと思った。
また、この家は各世帯に応じたまったく異なる感覚を与える2層の住宅空間からできているわけだが、外観としては、その違いを、なんとかひとつの統合された雰囲気/構成にまとめようとしている。そのために、各世帯の玄関に重心を与える外観が常識的な解答であるところを、そうではなく、組み合わせをずらし、親世帯の玄関と第三の玄関に重心を与えることで、あらかじめ二世帯住宅という読み取られ方を回避するというスマートな解が与えられている。そしてその上で、その親世帯の玄関を強調する要素として上階に大きな窓が設けられているのだが、これが2階の空間全体を象徴する「家事室」の開口になっていることにはユーモアさえ感じられる。
さらに、裏の庭からその先に続く畑が、1階と2階で全く異なるタイプの景と捉えられているのもおもしろい。それは、畑の地盤がやや上がっていることから可能になったことだろうが、1階からの景では庭の樹木が主役になってそれをスクリーンとして、背景としての空間の広がりが感じられる一方で、2階では逆に大きく広がる畑が部屋の伸びやかさを強調する、というふうに、ひとつのものからまったく別の顔を引き出せていたことは特筆に値する。
(青木 淳)
くまもとアートポリス
推進賞顕彰事業主旨
熊本県は、環境デザインに対する関心を高め、都市環境並びに建築文化等の向上を図るとともに、世界への文化情報発信地「熊本」を目指し、後世に残る文化的資産を創造するため、「くまもとアートポリス」を推進しています。
この事業の目的を達成するため、コミッショナーが国の内外から推薦した設計者を参加事業主に紹介するプロジェクト事業や各種のイベント、広報事業等を行い、さらに幅広く県民の皆様の御理解を深めていただくため、平成7年から「くまもとアートポリス推進賞」の表彰を行っています。
この賞は、質の高い優れた建造物等を顕彰することにより、県民の環境デザインに対する意識の高揚と都市環境並びに建築文化等の向上を目指し、併せて豊かな地域づくりを図ることを目的としています。